FUDとはFear(恐怖)、Uncertainty(不安)、Doubt(疑念)の略称です。バズ・マーケティング(Marketing buzz,buzz)やバイラル・マーケティング(Viral marketing)でFUDを使う事によりクリック率やメールの開封率を高める事ができます。ただし、過剰な使用は社会モラルに反する可能性があり、発信者に対しても反感や悪いイメージを植え付ける副作用があるため運用には細心の注意が必要です。

バズマーケティングに用いられるFUD戦術とは

FUDとは(英: Fear, Uncertainty and Doubt、直訳すると「恐怖、不安、疑念」)は、販売、マーケティング、パブリック・リレーションズ、政治、プロパガンダで使われる修辞および誤謬(ごびゅう/logical fallacy)の戦術の一種。FUDとは一般に、大衆が信じていることに反するような情報を広めることで、大衆の認識に影響を与えようとする戦略的試みである。 -Wikipedia
現在、多用されているFUD戦術とは「誤謬」に至らない程度にラッピングされている事を指します。ここで以下に述べるFUD戦術も「誤謬」の直前を指します。

FUD戦術は誰でも習得可能で効果的な手法であることは間違い有りません。知らなかったという方は、この記事を読み終えた後、FUD視点でメールや世の中の広告、「はてな」のホットエントリ、Naverまとめを見て下さい。それらしきモノに出会えるはずです。

尚、真のFUD(本来は広告禁止事項の一つ)を利用した詐欺的表現は様々な法で禁じられています。ここでは法に触れない、嘘ではないギリギリのFUD的な表現をFUD戦術と呼びます

【参考】http://ja.wikipedia.org/wiki/FUD
【参考】http://ja.wikipedia.org/wiki/威力に訴える論証
【参考】http://ja.wikipedia.org/wiki/恐怖に訴える論証

FUDのポイントは簡単

FUDの要素を含ませる事は比較的簡単にできます。

・あなたは失敗する。
・私は成功した。

この2つがFUDに繋がるコンセプトです。

・Fear(恐怖) / このままでは順位が落ちる。
・Uncertainty(不安)/ あなたのSEOは間違っている。
・Doubt(疑念)/ 私はことごとくSEO上位を獲得した。

FUD戦術はある条件下で確実に機能する

人間の心理は恐怖、不安、疑念の側面に敏感なので特定の条件下で確実に機能します。

以下はFUDが実際に市場に影響をもたらした事例です。1999年の英文コラムの日本語訳ですが今でも良質な教材の一つだと思います。
【参考】What is FUD ?

特に選択肢が極端に少なくなるとFUDに反応しやすくなります。例えば2択になった時など。
逆に選択肢が多くなるとFUDは機能しません。選択肢を少なくするFUDを選言肯定と言います。

例えばー

「あなたの被リンク対策は間違っている。私が上位獲得した被リンク手法。」

周囲はリンクよりもコンテンツを推奨している。結果として「私が上位獲得した被リンク手法」は際立って懐疑的に見える。そこで否定しようとすると、そこからFUDの効果が現れる。「あなたは間違っている。私は正しい。」の典型的なパターンで実は立証可能な事実が全くない。

・被リンクはGoogleが評価するとした数少ない因果関係
・しかし正解も間違いも証明する手段が無い
・個別の上位獲得に被リンクがどの程度関与しているかも不明
・加えて「あなた」と「私」には同様の手段が適用可能かも不明である。
「間違っている」で実は二択にされている。間違っているか?いないか?

だが、これを否定しようと考えた瞬間から戦術に嵌(はま)っている。基盤が無いから反証も不可能なのである。間違っていない(かもしれない)という結論は「自分が間違っていたのかという不安へ」。タイミング悪く、そこで順位が下落すると「正しい被リンク対策が必要」という誤った判断を産む。

ここでの正解は「全部嘘」以上。であるが「全部嘘」は「非論理的に感じる」人も多い。FUDは知識が豊富な人程、嵌りやすい。

懐疑 → 不安心理になる人がどのくらい居るかで正否が決まります。「専門知識が無い人」には通用しない手法でもあります。

FUD戦術の危険性

FUD戦術はIT系記事や補助食品広告などで多用されています。30年前IBMが多用し、その後、Microsoftが多用して問題となっています。掲示板で応戦される次世代ゲーム機の、ののしり合いもしかり。ディスプレイ広告にも行き過ぎた表現が目立ちます。

FUDは”修辞および誤謬の戦術の一種”と呼ばれるように、過剰な表現と嘘へと発展します。バズ(バイラル)は言葉だけが先に走りますから、特にその傾向が高まります。

そして、信頼を放棄することになります。「マイナスイメージのステルスマーケティング(ステマ)を自らが行ってしまう。」それがFUD戦術です。

誘導心理で誤った方向へと導いてしまうから「誤謬」です。刺激的なライティングも「誤謬」と紙一重の領域に有ります。
もし、あなたがライティングにこだわりを持つなら「誤謬」については深く研究する事をオススメします。

【参考】http://ja.wikipedia.org/wiki/誤謬

特に前後即因果の誤謬相関関係と因果関係の混同はよくありますね。

FUDではありませんがメルマガでは開封率を上げるために以下のような手法も用いられます。

● [有名女優]が心中を激白 / 遂に全裸解禁
●見えないシミを放置するとヤバい!/ 新・美白美容液発表

実際には、2つの記事の組み合わせで、事実を曲げないギリギリラインでメールのタイトルを操作しているのです。初見の開封率は格段に大きくなりますが続けると開封率は極端に低下します。

現状は過度のFUD蔓延

禁じ手が多用されている。それが現状です。
上述の通りFUD戦術は魔法では有りません。リスクある手法です。

期待される情報や効果が得られなかった場合、不信感への振れ幅が高くなり「炎上」しやすくなります。
これらは、生理的な嫌悪感に繋がり、最終的には製品やサービスの寿命を縮める事にもなるので本当に注意が必要なテクニックです。

例えばよく見る広告「え?気付かなかった。私の●●ってこんなに?」等は典型的な手法です。

ミスリードでFUDは深刻になる場合も。例えば「またか,●●化粧品」→ 受け手は「美容トラブル?」を想起します。実際には以前に「他の化粧品会社で起こった有名な美容トラブル」を利用し、関係の無い化粧品会社に僅かなキーワードでマイナスイメージを植え付けてしまいます。

スパム的SEOでもFUD戦術が多用される理由があります。「後で見る」「取りあえず保存」「公開ブックマーク」を意図したタイトルです。結局「後で読まない」。

タイトルに反応してしまう。ソーシャルシグナルを重視するGoogleのSEO対策には効果的なだけに、リンクベイトの目的のみで記事が作られている場合もあります。

*リンクベイト(Link bait):baitは釣り餌を指す。リンク獲得のために人々の気を惹くコンテンツやタイトルを作る事であるが、ソーシャルブックマークやWebクリップツールの登場により「キャッチコピーだけ」のリンクベイティングも横行している。

長期に使用するなら心理効果は薄めて使うのが良い

過激な表現で一気に集めたら「時間を置く」事で薄めることもできます。しかし消費コンテンツ時代の今、時間を置くくらいなら、心理効果を薄めて継続する方が長期的にはプラスに働くと思います。

少しだけ見る。→ [心理的ハードルを下げる]→ もう少しだけ見る。→ [心理的ハードルをさらに下げる]の繰り返しでサイト全体が、なんとなく「面白そう?」「役に立ちそう?」「話題性がありそう?」「信頼できる?」と転換するタイミングを待ちます。

FUDを理解し、過度な刺激を減らし、適度な修飾で文章をラッピングする。これを常に心がけるべきかと思います。

リピーターを増やす(接触機会を作る)ためにも、まず、記事を読んでいただく必要があります。だから嘘に成らない程度のスパイスは必要です。「全くやらない」「やりすぎる」はどちらも駄目です。